和の伝道者その9
土曜日, 3月 3, 2007 at 2:48午後 ![]()
箏演奏家
黒澤有美さん
聞いた話だが、英語の「パイオニア」という語には元々、主力部隊に先駆けて戦場へ行き、橋や道路や塹壕を作る工兵という意味があったそうだ。そのため「開拓する」とは後に、道を備えたり開いたりするという意味になったのだという。
「箏の世界では『20 絃 (げん) 奏者は女じゃない』なんて冗談があるんです」と黒澤さんは笑顔で語る。
先日、カーネギーホールで開いたニューヨーク初の演奏会。袖のない衣装を着て登場した時、「箏イコール着物」と決め付けていた一部の聴衆から驚きの喚声が上がった。
オーソドックスな箏は13本の絃で奏でる。しかし、彼女の専門は7本増えた20絃箏。増えた分だけ音域は広がるのだが、奏者に求められる演奏中の動きも激しくなる。「長い袖のある和服では、めいいっぱい腕を伸ばして弾くことができない」。着物を諦めた細い二の腕に宿った筋肉が、演奏中に美しく躍動する。ここで聴衆の喚声は静かな感嘆へと変わった。
両親は箏曲家。子供の頃から13絃箏を習ってきたが、20絃箏に出会った時、「楽しいことができそう」と転向した。同じ箏、されど違う箏。
「伝統楽器」と一般に称されるのは13絃箏。演奏に必要なテクニックすらも異なる20絃箏は、伝道楽器「箏」と呼ばれながら、まだ誕生して37年。20絃箏で弾くための「古典」すら存在しない若さ。演奏曲の作り手には現代洋楽の作曲家もいる。
しかし、古典だって作られた当時は「新作」だったというコロンブス的な発想。だからこそ、将来20絃箏を弾く演奏家たちに「古典を残す責任」がある。
箏が守られ生き続けてきた日本を飛び立ち、色んな音が混ざり合うニューヨークで奏でる音色。「言うことをぜんぜん聞いてくれない」箏と街。楽な道じゃない。
でも、「齢をとった時、『あの時は楽しかった』と考える生き方がいいじゃないですか」と彼女は微笑む。
伝統や古典。伝え、残す者がいれば、今まさに作る者もいる。それぞれが各々の道を行く。「そんな大げさことじゃない」と背中でいいながら。その是非は、後に続く者たちにゆだねつつ。
佐藤寛孝 |
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