和の伝道者その8
土曜日, 3月 3, 2007 at 12:17午後 倉岡伸欣さん
忙しい日本での滞在に追われ、飛び乗るように機上の人。長時間のフライトの後は、留守中に溜まった仕事が待つマンハッタンのオフィスへ直行。今は疲れた体を休めたい。
そんな時に出された機内食のステーキ。
「これはある意味暴力だ」。
「褒められることの少ない機内食サービスで、これは本当に喜ばれています」。
三年ほど前に特許認可の「冷凍ゆでそば」を開発し、日本航空(ファーストクラス)の機内食で自慢のそばを出している倉岡氏はそう語る。誰にでも、美味しい二八そばを作れるようにしたかった。
ニューヨークでレストランを開いて43年。マグロは赤み以外全て捨てられていた時代に全米初の本格的寿司バーをニューヨークで始めた。ふぐの取り寄せのために米食品医薬品局と5年をかけて交渉もした。
そして今度は本物の二八そば。
いつだって客の「食べたい」という声が、難しい日米の法律問題や流通業界の弊害を粘り強く乗り越えるための原動力になってきた。
「食べ物の商売は難しいものじゃない」と倉岡氏は言う。重要なのは、「うそ」がないということ。常に、本物で質を求めた料理をリーズナブルな値段で提供する。シンプルだが難しい。
では本物のそばとはなんだろう。日本で食べるそばが本物かというと、そうとも限らない。小麦粉8割、そば粉2割なんていう「二八そば」が存在するくらいだ。
そもそも原料となる国産そば粉が高すぎる。これじゃ、庶民の食べ物として本物の二八そばを出せやしない。ここで普通の人なら妥協する。無理は無理だから、と。
でも、普通じゃないくらい客と食べ物を愛している商人は、自らそばを栽培する道を選んだ。
倉岡氏が二十年前に始めたカナダでのそば栽培。痩せ干せた土地。同じ畑から取れても味が違うこともある。分からないことだらけ。でも、「諦めたことはない」と振り返る。必要と思ったことはやらねばならない。
「今だって試行錯誤中」だと言うそば粉を使って打った二八そば。ニューヨークでそばが食べられる店は多々あるが、理屈抜きに美味いそばを食べたきゃ52丁目に行くべきだ。
飛騨高山の天然水に育まれた天然本わさびを薬味にして、二八そばをすする。気がつくと飛行機は摩天楼を眼下に飛んでいる。そんな日もそう遠くはない。
だってここは「本物」の大都会、ニューヨークなのだから。
佐藤寛孝 |
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