土曜日
3032007

和の伝道者その10

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HAPAプロジェクト主催者・加州立大学サンタバーバラ校芸術学部長
Kip Fulbeck キップ ・ フールベック さん

 

小学2年生の時、彼のクラスでこんな授業があったという。

自分のイニシャルを書き込んだ小さな旗を画鋲のようなピンに張りつける。一人ずつ教師に呼ばれた子供が特製のピンを持ち、教室の壁一面に貼られた巨大な世界地図の前に立つ。自分や自分の家族の出身地を探し出し、手作りのピンを刺していくのだ。

中国人の母を持つ彼は自分の番を迎えると、初めに数本のピンを英国などに刺し、それから大きな地図を横断して最後の一本を中国に刺した。

地図は見上げるほど大きいのに、色とりどりのピンは、西欧各国の上でのみはためいている。彼の一本をのぞいては。30年以上たった今でも鮮明の残る記憶の中、背後で聞えた忍び笑いが響いている。 

「私たちは怠け者で、分かりやすいものを望みます。でも、本当に興味深いのはあいまいだったり、ぼんやりしていたり、定義できなかったりするものです」と語るのは、東洋人の血を引く人々の写真を収めた「 part asian ・ 100%hapa 」の著者、フールベック氏だ。

人は相手を理解するためにたくさんの「箱」を用いる。箱にはそれぞれ名札がついていて、日本人という箱があればハパという箱もあるはずだ。ハパとは俗語で「アジアならびに太平洋諸国に祖先を持つ人種との混血」という意味だ。

自身は長髪に日焼け顔。革ジャンを着て腕には彫り物もある。初対面の相手に「教授です」と答えた時の反応が興味深いと笑う。

彼の「HAPAプロジェクト」は、出版の他にロサンゼルスやニューヨークでの展示会も開き、長く米国社会で見過ごされてきた人々に世間の注目をむけさせるのが趣旨。

内容は至って明快。ハパたちの写真と、「あなたはなにものですか?」と尋ねられた彼らの回答を合わせて載せている。

本の中、100人以上の顔を眺めていたら、一人の少年の写真でページをめくる手が止まった。短髪の黒髪に茶色い瞳の少年。幾分残る幼さはすぐに、急ぎ足の成長にかき消されてしまうだろう。少年は「僕は中国人とデンマーク人の血を引いています。でもそのことを人にはいいません。なぜなら…」と答える。種明かしはしないが、フールベックさんの心の中で朽ち果てずに残るピンを思い出し、一見可愛らしいその理由に心が締め付けられた。