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0332007

和の伝道者その1

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ノンフィクション作家、沢木耕太郎氏の著書「バーボン・ストリート」の中に「奇妙なワシ」という上質のエッセイがある。

取組後の力士や野球選手が記者を相手に語るコメントが翌日の新聞紙面上では、ことごとく「ワシ」という紋切り型の代名詞で書かれてしまう。しかし、実際には誰も自分のことを「ワシ」などとは呼んでおらず、記者が読者のイメージに添い寝した安易な表現の結果、摩訶不思議な「ワシ」が毎日のようにスポーツ紙面に踊るそのおかしさと幾許の悲しさを絶妙に捉えていた。

世の中に溢れる厄介な先入観。我々はいつだってそれを頼りに「新しい何か」を理解しようとしてきた。しかし、それも度が過ぎればいかにくだらないものになるかを、筆者は伝えたかったのかもしれない。

アメリカの地でもそんな厄介な先入観を相手に孤軍奮闘してきた日本人がいた。彼らのお陰で、寿司は「 Sushi 」として市民権を得たし、酒は「 Saki 」と、なんだか本国よりもかわいらしく呼ばれている。そんな和の伝道者たちの今をレポートしてみたい。

「私たちは和紙を扱っています。だから、『ペーパー』と聞いて人々が抱く先入観からはどうしても離れたかったのです」

そう語るのは、ニューヨーク、イーストビレッジに和紙専門のギャラリー「 Precious Pieces 」をオープンさせた「和紙シェフ」こと小平伸浩さん(45)だ。

 紙は情報を伝達するための道具として存在してきた。それはいい。しかし、上等の和紙はそれだけで工芸品にだってなりえる。越前和紙が育んだ技術は、日本の紙幣や卒業証書で見る「透かし」を生んできた。十分世界に誇れる文化。だからここではペーパーという単語をあえて避ける。

そんな「和紙という言葉の意味を正確に伝える言葉が英語では見つけられない」と悩むところから小平さんのギャラリーは始まっている。

仏頂面の男性がぶっきらぼうに自分を表現する「ワシ」ならぬ、日本の工芸伝統品の「和紙」への先入観と向き合う毎日。

和紙 は水に弱い。大きくならない。印刷できない。燃えやすい。挙げれば切がない先入観に、一つひとつ丁寧に、しかし確固と伝えていくしかない。「壁だって和紙で作れます。もちろん燃えませんよ」と小平氏。

「紙が燃えない。そんな馬鹿な」と思われたら、「どうか一度、ギャラリーに入らしてください」。そんな和紙シェフのプライド。

世界 でも類を見ない和紙のカスタムメイド専門店として、日本を離れた和紙の「未来」がこの小さなギャラリーにかかっていると言い切るのは、1500年の伝統をもつ和紙技術を前にすれば、大きく言いすぎだということもないだろう。

 「いつの日か、アメリカ人が普通に『和紙/WASHI』と呼ぶようになる。それが目標です」と世界初の「和紙シェフ」は笑顔でそう語る。

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