矢野顕子×トトロ
月曜日, 12月 3, 2007 at 4:28午前 矢野顕子が現在もっとも音楽に没頭できる場所、
それがプライベートスタジオ・パンプキン。
マンハッタンの喧騒を離れた小さな田舎町の
優しさの香る「秘密基地」で、
デビュー30周年を迎えたアッコちゃんの世界を紡ぎました。
矢野顕子×トトロ ちょっと一休み
ジブリ映画「となりのトトロ」を見始めてしばらくすると、
主人公の幼い姉妹とその父親が古い家の裏手に広がる森へ、
引越しの挨拶に向かうシーンに出会う。
一本の大きな楠の前で
「お父さんはこの木を見て、あの家がとっても気に入ったんだ」
と語る印象的なシーン。
さすがジブリ、
親が自分の生きる場所をそんな風に
子供たちに説明できたらどんなにすてきだろうか。
以前、矢野さんに連れられて訪れた初夏のスタジオ・パンプキンは、
なんとなくその「トトロの森」の反対側のような世界。
実際、パンプキンの裏には立派な森が広がっていた。
まぁでも、さすがにトトロは登場しないだろうと高をくくっていたら、
「鹿の親子が目の前を横切ったり」はするのだと聞いて
驚いている僕に矢野さんは、
「私たちがやってくるずっと前から
彼らにとってここは散歩の通り道だったのかもしれないわね。
そう考えると向こうの方が全然先輩なわけだし、
こっちは最近やってきて、
ちょっと場所借りてピアノ弾かせてもらってます、みたいな(笑)。
とっても謙虚な気分にさせられますね」。
映画の中で、父親の声優を矢野さんが
「世界で唯一、私の事を言葉で説明できる凄い人」と敬う
糸井重里氏が担当していた。
こうなってくるとパンプキンの世界観を
「トトロ」になぞらえるなんて最初は冗談のつもりだったけど、
なんだかとても不思議な縁を感じてしまう。
だって矢野さんまでこんなことを言うのだ。
「結構以前から、いつかあばら屋を改造した
スタジオを持ちたいなぁと思っていたの。
子供の頃からもう無性に、
納屋とかあばら屋みたいなものが大好きだったから…
このスタジオはね、初めて見た時になんて言うか
『いい感じのボロボロかんだなぁ』って凄く気にいっちゃって、
もう値段とか条件とか全部忘れて、
これに決めたって…そういう良い出会い方ができた場所なんです」
まるで、トトロの世界のお父さんのような台詞じゃないですか。
今回矢野さんがパンプキンを案内して下さった六月というのは、
ちょうど近所の毛虫がわんさとスタジオへ遊びにやってくる時期。
スタジオ周辺での撮影の合間も、
しゃがみこみどこかで拾ってきたらしい小枝を使って
のん気にパンプキンを目指す毛虫たちを
「ごめん、ごめん」と笑いながら突いて急かしている姿が忘れられない。
あぁ、矢野さんらしく森の住人としての立場みたいなものを
ちゃんと築いてきたんだなぁと納得。
パンプキンには音楽スタジオとしては珍しく
大きな窓がいっぱいあって
自然の光がさんさんと降り注ぎ込む。
そこに矢野さんお気に入りというキャンドルの優しい香りが伴って
来訪者の時計の針を止めてしまう。
「もうとにかくここで演奏したら気持ちがよくて、
いくらでも弾いていられる」という言葉もうなずける。
パンプキンとは、いわばミュージシャン矢野顕子を支えるサンクチュアリー。
彼女の言葉の世界でならばさしずめ「秘密基地」といったところだろうか。
子供の頃、秘密基地を出発して隣町へ自転車で遠出することを「探検」と呼べば
「サイクリング」の何倍も楽しむことができたみたいな、そんな不思議な空間。
大人になったらもうあんな場所には帰れないのかなぁと
いつの間にか諦めているいつかの少年少女にとっては、
ちょっと眩し過ぎる場所。
だから、トトロの住む「あの森」の反対側なのだ。
あれ矢野さん。そういえば今日お召の白いシャツはもしかして…。
「へへ。これちょっと自慢なんですけどね、
このシャツは三鷹の森にあるジブリ美術館の
館長専用のシャツなんです。
先日、ジブリで出前コンサートをした時に
宮崎さんから頂いちゃったの」と言って万遍の笑みが帰ってきた。
オレンジ色でも橙色でもなく、収穫時期の、
お天道様をいっぱい浴びて育ったカボチャ色だから「パンプキン」。
スタジオを建ててくれたウッドストックのコミューン出身の大工さんたちが
いつのまにかそう呼んでいたのが由来。
そういえば、この収穫色したスタジオで
たくさんの「矢野顕子」が収穫されてきたわけですよね。
なんて絶妙なネーミング。
自身も、最高傑作の一つと述べる
ピアノ弾き語りアルバム「 Home Girl Journey 」。
それもレコーディングをパンプキンで行っているし、
ここ数年の矢野音楽は本当にパンプキン印でいっぱい。
ということでスタジオ内に移ってからも、
矢野さんは黙々とピアノに向かっておりました。
曲目はロックバンド「 ELLEGARDEN 」の「右手」。
途中、間奏部分を弾いている手を突然止め、
「ペン。ペンどこだっけ」と走り出して周囲を驚かせるなんてことも。
それも一段落すれば「いやぁ、どうしても浮かばなかったアレンジが
突然思いついちゃって」と照れておりました。
年中収穫期のパンプキンだから、
一度訪れればアイデアは時間を選ばずに湧いてきます。
「数日の泊り込みの時などに使用する離れ屋が敷地内にあるんですけどね。
夜寝ようと思ってベッドに入ってから昼に練習していた曲のアイデアが浮かんだりもするわけ。
そうすると直ぐにピアノで弾いてみたいって気持ちになっちゃう。
でもピアノはスタジオにしかないから、もうそうなったら、
懐中電灯を持って真っ暗な中をパジャマのままでも走って行きます(笑)」
満天の星空が見える月明かりの夜に、
収穫されたばかりのメロディーをピアノ演奏する…狐と狸がお客さん。
矢野さん言う。
「私は音楽以外でお金をもらったことがないんです」。
だからこそ「人に喜んでもらって、お金をもらえるのは特権なの。
こんな幸せなことはないわよ。だから自分出来る範囲のことをするし、
可能だけ多くの人を、例え一時的であっても幸せにしたい」と考えられるのが矢野顕子。
そんで持って今回は、
パンプキンという秘密基地を手に入れた
無敵のシンガーソングライター矢野顕子の収穫物たちが、
ファンどころか狐や狸、
いやいやもしかしたら森の主の「あいつ」でさえも、
幸せにしちゃうくらいの勢いで輝いているのだと
納得させられちゃったわけであります。
佐藤寛孝 |
Post a Comment | 