水曜日
4182007

矢野顕子×THE PUMPKIN Vol.1

矢野顕子が現在もっとも音楽に没頭できる場所、
それがプライベートスタジオ・パンプキン。
マンハッタンの喧騒を離れた小さな田舎町の
優しさの香る「秘密基地」で、
デビュー30周年を迎えたアッコちゃんの世界を紡ぎました。


矢野顕子×THE PUMPKIN

いつだったかニューヨークの知人に、
矢野顕子の日本の音楽シーンでの立ち居地みたいなものを
アメリカのミュージシャンに例えると
誰にあたるのかと尋ねられたことがあった。
厄介な質問に内心途方にくれそうな気分になりつつ
「ノラ・ジョーンズにキャロル・キングを足して2で割ったところに
ブリットニ・スピアーの若さをエッセンスとして少々ふりかけてですね…」
そんなかなり適当なことを答えたら
「そんな人、この世に存在するわけがないでしょ」
と笑って許してもらった。

少々強引だが、ここに一つの真理がある、と思うのである。
つまりミュージシャン・矢野顕子を知らない人に
彼女を必死に説明しようとすると、
この時の台詞がまるっきり冗談とも言えなくなるということ…などと、
書き始めてはみたものの一向に進まない原稿を前にして
僕はそんなことを真剣に考えていた。
そう、そうだよワトソン君。
つまり、矢野顕子というミュージシャンは
ある意味「存在するわけがない」奇跡のような人
なのだという圧倒的な真理なのだよ。
そういえば娘の坂本美雨がいつだったか
そんな母親を称して
「別の星に暮らす異性人」と呼んでいたじゃないか。
とにかく、スマップがオンリーワンを歌うずっと前から
ここに一人その存在がオンリーワンな女性がいるわけで…。

思い出してもらいたい。
遠くセピア色下記憶の向こうのあなたが
クラスメートの部屋で偶然矢野のCDを聴いた日や
矢野のライブに初めて出かけた夜の記憶を。
あなたもきっと感じたであろう
「なんなんだ。なんなんだこれ」という
不安と興奮の入り混じったような甘くて苦く、
でもやっぱりほのかに甘い思い出。
後を引くんだよねあれが。うんうん。

誰にも似ていなく、誰も似ていない
あの歌声とメロディーとリリックとピアノ。
そんでもって彼女がそういうアーティストだってことを
ファンならみんな知っている、というこの事実。

矢野顕子というミュージシャンに出会った時の感動。
それは例えるならばきっと
この世のどこかでひっそりと暖簾を守る極上の寿司屋に出会った時、
日本人なら絶対感じるであろう歓喜のようなもの。
というわけで、早速パソコンに取材ノートを抱え
「腹が減ると途端に不機嫌になるのよね、私」
と言っていた矢野もお気に入りらしい
ダウンタウンの小さなお寿司屋さんへ直行することにした。

(敬称略)

つづく