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木曜日
3292007

スニーカー

Sneaker  ― こそこそする人。卑屈な人。《~s》スニーカー。ゴム底の靴。ラテン語のスナカ(蛇が音もなく忍びよる様)から転じた言葉。

十六 歳でいきがった少年だった僕にはひとつ年上の恋人がいた。高三の彼女は、学校でもトップクラスの優等生で、当時の僕は彼女の家に入り浸っていた。

3人姉妹の末っ子だった彼女には有名女子大に通う姉がいた。ふたりがイチャイチャしていると、時々そのお姉さんが部屋の扉を開けて覗きに来る。咥え煙草のお姉さんはいつもクスッと笑うと、奥にある部屋に帰って行った。そして、きまってお姉さんの部屋から古臭い懐メロが流れてくる。当時、お姉さんにはカッコいい彼氏がいてとても大人びて見えた。いつもお洒落で、咥え煙草で男言葉を使い分ける・・。

ある日、ドタドタッと階段を駆け上がる足音がしたかと思うと、ガラッと部屋の扉が開いてお姉さんが入ってきた。こんにちは、と言いかけて、僕は言葉に詰まった。お姉さんは泣いていた。「おす!」と、泣いているくせにふざけ口調で言うと、スッと部屋から出て行った。そしてまた、奥から「虹とスニーカーの頃」が聴こえてきた。夕方の空が暗くピカッと光り、しばらくしてから遠雷が聴こえた。窓の外の雨どいに、ポツポツッと何かが当たる音がして、ものすごい夕立が降りだした。屋根や窓ガラスを叩く雨の音があまりにもうるさすぎてお姉さんの部屋からはもう何も聴こえない。うわぁ。と、ふたりで慌てて窓を閉めると奥の部屋から、さっきよりもずっと大きな音量で「虹とスニーカーの頃」が聴こえていた。僕はなぜかとても悲しい気分になった。

隣に寄り添う恋人は僕の手を握ったまま、雨粒か、もしかしたらもっと別な何かをみつめている。ありがちな環境の中、当然、彼女にもお姉さんと同じ色に染まった未来があって、けれどその未来の中に僕はいない気がした。

その日、いつまで待っても虹は架かからなかった。

「スニーカー」はとても甘酸っぱい少年の記憶。

《わがままは男の罪 それを許さないのは女の罪 若かった何もかもが あのスニーカーはもう捨てたかい》

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