第三回:「かっこ良くしてください」
土曜日, 2月 10, 2007 at 6:07午前
「かっこ良くしてください」
床屋でこんな注文して、ひどい目にあったことがある人は少なくない。実際、かっこ良くなるはずが、もみあげを全部剃られて泣く泣く家に帰る羽目になった某ビジネス新聞の記者を僕は一人知っている。かといって「前髪は長めで横はシャギーでよろしく」などと事細かに注文してみても、なかなか自分の思うような髪型にならない。思い悩んで「ヘアカタログ」をパラパラめくってみても、自分に合いそうな髪型は載っていないし、さてどうしたものかと今月も床屋に行くのが憂鬱になる。
デザイナーに仕事を依頼するたびに同じようなジレンマに直面する方は少なくないようだ。かっこよくデザインしてもらいたいものの、どうやって注文したら自分の思い描くイメージどおりのデザインができあがるのか、良くわからないのである。思いあまって「デザインに関してはこちらから提案させていただきますので、制作費を勉強してください」なんて依頼してこられたクライアントがいたけれど、それではそもそもデザイン事務所に仕事を依頼する意味がなくなってしまう。さてどうしたものだろう。
時々、「こういう感じにしてください」とサンプルを持ってきてくださる方がいる。それは、床屋さんに雑誌の切り抜きなんかを見せて「こんな感じで」とお願いすることに似ている。デザイナーとしても、これはイメージがわいてなかなか助かるのだけれど、会社のイメージとはまったく合わないサンプルを持ってこられて困ってしまうことがある。ちなみに、先日僕は、行きつけの床屋さんに坂口憲二の写真を見せ「こんな感じで」とお願いした。ありったけの勇気を振り絞ったのに、とても複雑な笑顔で一言「無理です」と言われてかなりへこんだ。何が無理だったのだろう。 世の中、なかなかうまくいかないものである。
では、いったいどう依頼すれば良いデザインができあがるのであろう。デザイナーとしての能力を最大限発揮してもらい、しかも自分のイメージを超える良い仕事をしてもらうには、どうすればよいのだろう。
あなたがもし本当にデザイナーに本領を発揮してもらいたいと思うならば、 「デザイナーに何をしてほしいか」ではなく、「その会社なり商品なりを通して自分たちは何をしたいのか」、そして「だれにそれを伝えたいのか」という二つのビジョンをきちんとデザイナーに説明することである。言うまでもなく、良いデザインとは「かっこいい」デザインのことではない。それは、その商品や会社にとって「ふさわしい」デザインのことである。つまり、デザイナーの本領とはその「ふさわしい」デザインを提案するところにある。それは、クライアントとデザイナーが同じ目的を共有しなければ、決して作り出すことのできないものである。
腕の良い床屋とは、流行の髪型を知っている人でも、単にハサミが上手に仕える人のことでもない。それは、状況や目的を考慮した上で、その人に一番あった髪型を提案できる人のことである。そして、的外れの要求に対しては、はっきりと「NO」といえる。就職活動を控えた高校生に「やっぱり髪は赤より黒いほうが良いと思うよ」と親切に勧められるのが、本物の床屋であろう。
ちなみに、腕の良い床屋たちは、おしなべて質問上手である。こちらの要望を上手に聞き出し、自分の髪質や頭の形にあったヘアスタイルを提案してくれる。ということで、次にデザイナーと仕事をするときは、聞き上手なデザイナーと組むことをおすすめしたいと思いますが、どうでしょう。
遠藤大輔 |
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