僕がどら焼きで原稿を引き受けた理由
土曜日, 2月 10, 2007 at 5:57午前
「つまり、遠藤さんたちは『ドラえもん』なわけですね」
クリエイティブディレクターを交えた質疑応答の末に、ビジネスウィーク紙の佐藤記者はポキポキと首を鳴らしながらそう言った。正直、なにが「わけですね」だ、と思ったけれど、どうやらデザインという仕事は、新聞記者の彼にとって本当にドラえもんの世界ぐらい非日常的で未知のものであるらしかった。デザイン業界がドラえもんの世界ぐらい夢と希望にみちていると思われていると考えればまだ救いようもあるけれど、未来の道具でパパッと問題が解決するように、デザインはどんな問題でも簡単に解決してくれるなんて安易に思われてはたまらない。そこで、
「じゃ、インターン付けで雇われているあなたに、ビジネス紙面を面白くしてくれなんて頼む社長は、さながらジャイアンですね、ははは」
と言ってやろうとおもったけど、やめた。せっかく舞い込んだデザイン以外の仕事を棒に振りたくなかったし、本当にわらえない雰囲気だったから。しょうがないので、中立的な笑顔を浮かべながら「あー」とか「うー」とか曖昧な返事をしていると、今度は、
「じゃ、この『マック』ってのが『四次元ポケット』というわけかぁ」
などとうなずきながら、最近買ってもらったというキャノンのデジカメで、業務用スキャナーの写真をパシャパシャ撮り始めた。
「えっっと、それはスキャナーで、こっちがマックです。ええ、G5です。いやいや、そんなすごいマシーンじゃないですよ、ヘラヘラ」
薄笑いを浮かべながら、僕は本気で自分をせめた。ああ、なんという仕事を引き受けてしまったのだろう。これではうちの事務所の知名度が上がるどころか、今いるクライアントさえいなくなってしまう。「ざっくりと自由に、そして大いに、デザインビジネスについて語ってくれないか」という佐藤記者にのせられて「ニューヨークのデザイン事務所、徹底解剖」なんていい気になっていたけれど、さっさと帰って、胃薬でも飲んで寝てしまった方が身のためだ。
しかし、話ここに及んでふと考えた。これが現実なのかもしれない、と。一緒に食卓を囲んで食事をしてはいても、その実、だれもその本当の正体を知らないドラえもんのように、デザイナーの本当の姿を理解している人は少ない。しかも、なんの資格も必要としない彼らに、いったいデザイナーとはどんな仕事をしている人なのかと問いただすのは、ドラえもんに本当の正体を尋ねるよりも恐ろしい。
そもそも、真面目に仕事をしているほとんどのビジネスマンたちは、デザイナーとよばれる人と直接仕事をすることはあまりない。実際、デザイナーたちは、オフィスにも、お得意先にも、トレードショーの会場にも見当たらない。唯一見かけるといえば、メンズノンノ紙上の(自称)デザイナーたちだけである。流行のファッションに身を包んだ、猫背で自閉症気味の青年たちの写真を眺めながら「うむ、これがデザイナーか、なるほど」と思うしかないのである。
ならば、メンズノンノからは電話さえかかってこないデザイナーこと遠藤が、デザインとは一見何の関係もなさそうなビジネスウィーク紙上において、デザインについて考えてみるのも悪くないかもしれない。いや、デザイナーの端くれとして、むしろ語らねばなるまい。僕は、今度はマウスパッドにレンズを向けている佐藤記者の手を無理矢理にぎりしめて言った、
「そうです、ドラえもんです。ドラえもんなんです、佐藤さん!」
「え、このマウスパッドがですか。ドラえもんにネズミ、うまいなぁ〜」
「そうです、そうです。だから原稿料は、どら焼きでお願いします」。
遠藤大輔 |
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